1. 法人破産と従業員対応ー会社が守るべき3つのポイント
会社が破産や倒産の局面に立たされたとき、金融機関や取引先への対応と並んで、経営者の頭を悩ませるのが「従業員への対応」です。
従業員は突然の失職により生活の基盤を失うことになります。その衝撃や不安は非常に大きく、適切な対応を欠けば、説明不足から強い反発や混乱が生じ、破産手続そのものにも支障をきたすおそれがあります。
この記事では、法人破産時に従業員へ対応する際の重要な3つのポイントを、実務経験と法律上の根拠を交えて解説します。最後まで読んでいただくと、いざというときに慌てず、必要な手順を踏んで従業員対応を進められるようになります。
2. 事前説明のタイミングと誠意ある対応
(1) なぜ直前に説明すべきか
破産方針を決めても、準備段階で全従業員に事前に知らせることは現実的には難しい場合がほとんどです。
理由は、情報が外部(金融機関・取引先など)に漏れれば、預金凍結や取引停止が発生し、手続き準備が妨げられる危険があるためです。また、従業員に過度な不安が広がると、退職が相次ぎ、会社の営業活動そのものが立ち行かなくなるおそれもあります。
そのため、多くのケースでは一般従業員への説明は破産申立直前になります。これは必ずしも「不誠実」ではなく、会社存続期間を少しでも延ばし、最後まで給与や解雇予告手当の支払い準備を整えるための現実的な判断です。
(2) キーパーソンには早めの共有
一方で、経理担当者や部門マネージャーなど、手続や引き継ぎに直接関わる従業員には早めの情報共有が必要です。
資金繰り、帳簿整理、取引先対応など、破産準備の中核を担うため、内部協力体制を先に固めておくことが重要です。
3. 退職時の未払給与対応──制度と手続の全体像
(1) 即時解雇の場合の注意点
破産時は即日で事業停止となる場合が多いため、即時解雇が原則です。労働基準法20条により、30日前の予告を行わない場合は、平均賃金30日分以上の解雇予告手当を支払わなければなりませんので、従業員の解雇予告手当分はあらかじめ用意しておく必要があります。
ただし、現金不足で支払えない場合もあり、その場合は平身低頭、従業員へ説明するしかありません。
(2) 未払賃金立替払制度
未払賃金がある場合や退職金が支払えない場合、従業員は、未払賃金立替払制度(独立行政法人 労働者健康安全機構)により、退職時から遡って6か月間の未払賃金等の8割相当額の支払いを受けることができる場合があります。
立替払制度を利用するには、従業員が自ら、「立替払請求書」に必要事項を記載し、破産管財人に証明をもらい、これを独立行政法人労働者健康安全機構に提出する必要があります。
そのため、未払賃金立替制度の存在と申請方法を従業員に事前に説明して、利用を促すべきでしょう。
なお、立替金が支払われるまでの期間についてですが、申請には、破産管財人の証明が必要たなめ、実際に立替金が支払われるのは破産開始決定が出てからになります。必要書類を提出してからは、書類に不備がなければ30日以内に支給されることとなっていますが、そもそも、破産開始決定が前提となるため、申立までに時間がかかる見込みの場合は、その旨も従業員に伝えておくべきです。
(3) 裁判所への債権届出の必要性
破産手続においては、未払給与は法律上、他の債権よりも優先して支払われる「優先的破産債権」に位置づけられています。そのため、破産手続開始後に資産の換価が進むと、未払給与の支払いが可能になるケースも少なくありません。
もっとも、その配当を受けるためには、従業員自身が裁判所に対して「債権届出」を行う必要があります。そのため、会社としても、給与の未払いがある場合は、従業員に対して「債権届出をしないと配当を受けられないこと」「裁判所から書類が届いた場合は、放置せずに必ず内容を確認し、必要事項を記入して提出すること」を、あらかじめ説明しておくことが非常に重要です。
3. 解雇後に必要な手続き
破産に伴う解雇後は、通常の退職時と同じく各種行政手続を行う必要があります。ただし一斉に多人数分を行わなければならないため、遅れると従業員の生活に直結する不満につながります。解雇後速やかに手続きができるよう事前に準備しておきましょう。
– 雇用保険に関する手続き
破産による解雇は「会社都合退職」に該当するため、従業員は雇用保険(いわゆる失業保険)を自己都合退職よりも有利な条件で受給できます。
会社は、退職日から10日以内に雇用保険被保険者資格喪失届と離職証明書をハローワークへ提出し、離職票を発行してもらい、従業員がスムーズに雇用保険を受給できるよう、従業員に速やかに離職票を交付しましょう。
– 社会保険の資格喪失手続き
解雇に伴い、社会保険の被保険者資格が喪失するため、健康保険、年金の切り替えが必要です。健康保険の切替えが遅れると、従業員やその家族の通院に支障が生じることがあるため、会社側は、保険証を回収し、「健康保険・厚生年金保険 資格喪失届」を日本年金機構に提出して、資格喪失証明書を従業員に交付しましょう。
– 源泉徴収票の交付
会社は、退職日から1ヶ月以内に、従業員に対して源泉徴収票を交付する義務があります。従業員が、確定申告や年末調整に必要になため、できるだけ早く発行・交付しましょう。
– 住民税の取り扱い
会社が給与から天引きしていた住民税(特別徴収)は、退職により継続できなくなります。そのため、会社は「給与所得者異動届出書」を市町村へ提出し、特別徴収を停止します。従業員は、普通徴収(自分で納付)に切り替えて支払うことになりますので、その旨も説明しましょう。
4. まとめ:準備と説明で混乱を防ぐ
法人破産における従業員対応は、タイミング・説明・手続きの3つを丁寧に押さえることで、無用な混乱を避けることができます。
特に、未払給与や制度利用に関する案内が不十分だと、従業員の不信感やトラブルにつながりかねません。会社として何をすべきかを事前に整理し、必要な準備と誠実な説明を重ねることが、結果的にスムーズな手続きと円満な関係の維持につながります。
とはいえ、経営が逼迫した中でこれらをすべて一人で対応するのは現実的ではありません。実務を的確に進めるためにも、早い段階で弁護士に依頼し、全体の見通しを立てたうえで動くことが大切です。