1.「相続人は兄弟二人だけ」──その思い込みが招く落とし穴
相続は“誰が相続人か”から始まる──相続人調査の重要性と実務の現実
「我が家は兄弟二人だけだから、相続人の調査なんて必要ないですよね?」
そう考えてしまうのは自然なことです。けれど、本当にそうでしょうか。
もし故人に、家族の知らないところで婚外子がいたとしたら──。
あるいは何十年も音信不通の兄弟が海外で生きていたとしたら──。
その事実が後から判明した瞬間、遺産分割はすべてやり直しになります。「まさかそんなこと」、と思われるかもしれませんが、相続実務の現場では決して珍しくないことです。
この記事では、相続実務に詳しい弁護士が、相続人調査の具体的な方法とその重要性、そして実務で実際に起きているトラブル事例までをわかりやすく解説します。
2. 相続人を欠いた遺産分割は無効
遺産分割は「相続人全員」で行わなければ効力を持ちません。
一人でも漏れていれば、その協議は無効となり、不動産の名義変更や預金解約も白紙に戻ります。場合によっては、すでに処分した財産の返還を迫られることすらあります。
だからこそ、分け方を話し合う前に最初にすべきことは、相続人を正確に調査・確定する作業なのです。
3. 相続人を調査するための法的手順
相続人調査は、被相続人(故人)の出生から死亡までのすべての戸籍を取り寄せることから始まります。
必要に応じて、除籍謄本や改製原戸籍謄本も含め、本籍地の市区町村役場で取得します。
なぜ出生までさかのぼるのか―それは、認知された子や過去の婚姻関係で生まれた子も、法律上の相続人に含まれるからです。出生からの戸籍を調べなければ、「隠れた相続人」を見落とす危険があるのです。
4. 調査が複雑なケース
現代では離婚・再婚、事実婚、認知、養子縁組などが絡む家族関係が増えています。
たとえば、次のようなケースでは調査が一層複雑になります。
⑴ 婚姻歴が複数回ある
⑵ 婚外子の認知が過去に行われている
⑶ 養子縁組をしているが、別の親子関係も併存している
⑷ 海外での出生・婚姻・死亡が絡む
これらは、戸籍を複数の自治体から取り寄せ、つなぎ合わせる作業を要します。また、戸籍法の改製(昭和・平成改製)により、古い戸籍は現行のものだけでは全情報が確認できないため、改製原戸籍まで取得する必要があります。
5. 弁護士が調査するメリット
上記のような調査が複雑なケースであっても、相続実務に精通した弁護士が相続人調査を行えば、戸籍の請求先や必要な書類の見通しを立て、必要に応じて法的手続を用いることで、漏れなく効率的に収集できます。
さらに、行方不明者が相続人に含まれる場合は、不在者財産管理人の選任など次の法的ステップへ直結します。調査と対応を一貫して進められる点が、弁護士に依頼する大きな利点です。
6. 相続人の見落としが引き起こす悲劇
ここで一つ実例を挙げます。
ある兄弟が、「相続人は兄弟二人だけだ」と思い込み、遺産分割協議を済ませました。
内容は、兄弟の一人が被相続人の預貯金をすべて取得し、もう一人が不動産をすべて相続する、というものでした。
ところが数年後、被相続人に認知された婚外子が存在していたことが判明しました。その婚外子はすでに死亡していましたが、その子どもたちが代襲相続人として現れたのです。
すでに済ませた遺産分割は無効となり、やり直しを迫られましたが、預貯金を相続した兄弟は大部分を生活費に使ってしまっていました。一方、不動産を相続した兄弟にも十分な資金的余裕はなく、最終的にはその不動産を売却して清算せざるを得なくなりました。その結果、長年住み続けてきた家を失い、退去を余儀なくされたのです。
実はこの事案、私は婚外子の代襲相続人側の代理人として関わりました。婚外子側からすれば、自分たちの正当な権利を主張したに過ぎません。しかし兄弟だけで済ませてしまった遺産分割は法的に無効であり、その是正を求めざるを得なかったのです。
もし、この兄弟が最初の遺産分割の前に弁護士に相談していれば、弁護士が故人の出生から死亡までの戸籍を収集し、婚外子の代襲相続人を見つけていたでしょう。その上で、全員を交えた遺産分割協議を行えば、このような悲劇は防げたのです。
この事例は、「相続人調査を怠ること」がいかに深刻な結果を招くかを如実に示しています。
7. 相続は「事実確認」から始まる
相続人調査は、相続手続き全体の土台を形づくる作業です。
土台が崩れれば、どんなに整った合意書も無意味になります。
金額の多寡や分け方に目を奪われがちですが、その前に「誰が相続人か」を正確に押さえること。一見地味な作業のように思えますが、相続のスタートとして、何よりも相続の土台として、この作業は不可欠なのです。
8. まとめ
これまで見てきたように、相続人調査は「形だけの確認」ではなく、遺産分割のすべてを左右するとても重要な作業です。
そして、相続人調査は、制度上は自分でも役所に戸籍を請求して進めることが可能です。
しかし、現実には、出生から死亡までの戸籍を漏れなく収集し、旧字体や改製原戸籍を読み解き、養子や認知の有無を見落とさず整理する作業は容易ではありません。
当事務所は、複雑な家族関係の相続人から、音信不通の相続人、海外在住の相続人の発見まで、数多くの相続人調査の実績があります。
日本全国からのご相談に対応しておりますので、相続人の調査に不安がある方、遺産分割を失敗したくない方は、当事務所にご相談ください。