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遺産分割で共有名義を選ぶ危険性─“とりあえず共有”の落とし穴

1.「とりあえず共有」が相続トラブルを招く理由

相続で不動産をどう分けるか意見がまとまらないとき、「とりあえず共有にしておこう」という結論に落ち着くことがあります。公平で柔軟に思えるため、話し合いの着地点として採用されやすいのです。

しかし実務上、この“とりあえず”が数年後に取り返しのつかないトラブルを招くことは少なくありません。

意思決定の停滞、世代交代による権利関係の複雑化、管理負担の不公平──こうした問題が積み重なったところに、“持分屋”と呼ばれる業者が介入してくるケースもあります。

しかも、税務上のわずかなメリットを理由に「共有を選びましょう」と安易に助言する税理士の存在も見逃せません。法律的なリスクを理解しないまま共有を勧めることで、長期的に相続人を苦境に追い込むケースは少なくありません。

この記事では、相続と不動産問題を得意とする弁護士が、共有名義の仕組みと具体的なリスク、そして代替案について専門家の視点から解説します。

2. 共有名義の仕組みと一見した合理性

共有とは、ひとつの不動産を複数人で持分割合を決めて共同所有する形態です。相続分に応じて割合が決まるのが通常ですが、相続人間の合意により異なる割合に調整することも可能です。

この制度は一見すると合理的で、誰か一人に偏らず「公平」に見えるため採用されやすいのですが、実際に運用すると意思決定の遅れや負担の偏りが顕著に現れます。

3. 意思決定の停滞─「売りたい」「売りたくない」で膠着

共有状態では、不動産の売却・担保設定・建替えといった処分行為に原則全員の同意が必要です。一人でも反対すれば前に進みません。

実家を売却して現金化したくても、「思い出があるから手放したくない」という一人の反対で話が止まります。さらに相続人の一人が海外在住で連絡が取れない、全く協力しないといった事情が重なると、何年も資産が動かせなくなることもあります。

実務でも「兄弟の一人が『絶対に売らない』と突っぱねたため、10年以上放置され、固定資産税の滞納で競売にかかった」というケースが実際に存在します。

4. 世代交代による権利関係の複雑化

時間が経つにつれて、共有者の死亡により持分が次世代へと受け継がれます。最初は3人の兄弟姉妹だった共有が、10人以上の従兄弟世代に膨らむこともあります。

互いに顔を知らない親戚同士で合意を取るのは困難で、実務上は裁判所に頼らざるを得ません。共有物分割訴訟の多くは、こうした「世代交代による細分化事案」で占められているのです。

5. 管理・税負担をめぐる不公平

共有名義の不動産では、管理費や固定資産税を持分割合に応じて全員が負担するのが原則です。しかし実際には「払う人」と「払わない人」が固定化することが多く、支払った人が不満を募らせます。

立て替えても後から回収するのは難しく、法的請求をしても親族関係は悪化するばかりです。この不公平が共有者間の不信を生み、「もう持分を売って関わりを断ちたい」という心理を誘発します。

6. そこにつけ込む“持分屋”

意思決定の停滞、世代交代による複雑化、管理負担の不公平──これらの共有の弱点に介入してくるのが、いわゆる“持分屋”と呼ばれる悪辣な不動産業者です。

この手の輩は、疲弊した共有者から持分を相場の数割安で買い取り、共有者として加わります。その後は他の共有者に「市場価格や路線価に基づく高値で買い取れ」と迫り、応じなければ民事調停や訴訟をちらつかせます。代理人弁護士を立てて強硬に交渉してくるケースも珍しくありません。

7. 典型的な失敗例

兄弟姉妹4人が実家を共有で相続したケース。当初は「放置で構わない」と合意していました。

しかし10年後、世代交代で共有者は9人に膨張。そのうち1人が資金難から持分を持分屋に売却しました。すると、代理人弁護士から「調停・訴訟にする」と繰り返し圧力を受け、日常的にプレッシャーをかけられることに。最終的に「裁判になるよりは」と観念し、相場からかけ離れた高額で言い値を飲まざるを得ませんでした。

また別の案件では交渉が決裂し、共有物分割訴訟の末に競売にかけられた事例もあります。市場価格より数割安い価格で落札され、全員が不本意な損失を被りました。

つまり共有を選んだ時点で、待っているのは「相手の言い値で買わされる」か「競売で安値処分される」か──どちらに転んでも大きな損失を免れないのです。

8. 素人である“税理士の甘言”に注意

こうしたリスクが現実にあるにもかかわらず、「税務上有利だから」という理由で安易に共有を勧める税理士もいます。

しかし、税務の目先の利益など、長期的なトラブルに比べれば取るに足りません。法律の実務を理解しない助言に従った結果、共有が数十年先まで争いの種となり、最後は持分屋に食い物にされる─取り返しがつかない状況になって、泣きながら弁護士に相談に来る相談者を何人も見てきました。

このような最悪の事態を避けるためには、税理士の無責任な甘言を盲信してはいけません。税理士は税金の記帳業務以外は素人に過ぎないのです。

9. 共有を避けるための代替策

共有は一時的には対立を回避する方法に見えても、長期的には深刻なトラブルを抱え込みます。実務的には次の方法を優先的に検討すべきです。

⑴ 単独所有+代償金支払い

誰か一人が不動産を取得し、他の相続人には代償金を支払う方法。公平性と将来の安定を両立できます。

⑵ 売却して現金分割

不動産を共有者全員が協力して売却した上で、現金化して分ければ、意思決定の停滞や持分屋介入の余地を排除できます。

⑶ 処分方法を事前に合意しておく

やむを得ず共有とする場合でも、将来の売却時期や処分方法をあらかじめ合意書で定めておけば、リスクを一定程度抑えられます。

10. まとめ

相続不動産の共有は、「とりあえずの解決」に見えて実際には「将来の火種」です。意思決定の停滞、世代交代による複雑化、管理負担の不公平──これらにより共有関係は必ず揺らぎます。そこに“持分屋”が入り込めば、相手の言い値で買わされるか、競売で安値処分されるか、いずれにせよ大きな不利益を避けられません。

税理士が「税務上わずかに有利だから」と共有を勧めても、その助言は法律的リスクを無視した短絡的なものです。相続人が長期にわたり苦境に追い込まれる現実を直視すれば、共有を安易に選ぶべきでないことは明らかです。

相続不動産は「誰が単独で取得するか」「売却して現金で分けるか」を早い段階で見極め、共有という危険な選択肢をできる限り避けることが、将来の大きなトラブルを防ぐ確かな方法です。

不動産を共有名義にする前に、不動産が絡む相続は、相続と不動産問題を得意とする弁護士にご相談ください。

 

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