1. はじめに
「お父さんの遺産、みんなで話し合って分けましょう」
言葉にすると簡単ですが、現実にはそう簡単ではありません。
銀行の口座ひとつを解約するだけでも、相続人全員の署名・押印が必要になり、不動産の名義変更には登記の手続きが伴います。しかも、感情のもつれや過去の確執が浮き彫りになると、話は一気に進みにくくなります。
この記事では、遺産分割を得意とする弁護士が、つまずきやすいポイントや遺産分割の流れを中心に、遺産分割の概要についてお話しします。
2. 遺産分割=遺産を分けること
法律上、遺産分割とは、被相続人が残した財産を、各相続人に具体的に分ける行為です。要するに相続人みんなで「遺産を分ける」ことです。遺産分割の概念自体は、何ら難しくありません。
3. 分け方が難しい
ただし、その分け方は一律ではなく、まず遺言があるかどうかで道筋が変わります。遺産の分け方のプロセスが、遺産分割のややこしい点です。
⑴ 遺言が有る場合
遺言に明確な分割方法が記されていれば、それに従うのが原則です。もっとも、全く遺産を受けられない相続人が出る場合など、遺留分の問題が生じることもあります。
⑵ 遺言が無い場合
遺言がない場合は、相続人全員での話し合い(遺産分割協議)が第一歩です。ここで合意できれば協議書を作成して終了します。しかし、全員の合意がなければ前に進みません。話し合いが難航すれば、家庭裁判所の調停へ。さらに折り合わなければ、裁判所が強制的に分け方を決める審判に進みます。
4. 実務でつまずく三つの局面
経験上、遺産分割で多くの人がつまずくのは、次のような場面です。
⑴ 一つ目は「相続人の確定」
被相続人の出生から死亡までの戸籍をさかのぼって集める作業は、意外と時間がかかります。前妻との間に子がいた、養子縁組があった、認知した子がいた──こうした事実が途中で判明することも珍しくありません。
⑵ 二つ目は「遺産の全体像の把握」
不動産や預貯金だけでなく、借金や保証債務などマイナスの財産も調べなければなりません。プラスとマイナスのバランスによっては、相続放棄や限定承認を選択すべきケースも出てきます。
⑶ 三つ目は「感情の衝突」
相続は金額だけの問題ではなく、「なぜ自分には知らせてくれなかったのか」「生前にあの家は兄が使っていたじゃないか」など、感情的な不満が絡み合います。この段階でこじれると、法律論だけでは解決できない状況に陥ります。
5. 調停という選択肢
調停は、家庭裁判所の調停委員が間に入り、個別に話を聞きながら合意点を探る手続きです。
法廷のような公開の場ではなく、小さな調停室で行われ、相手と顔を合わせない配慮も可能です。費用は数千円程度と手軽ですが、1回あたり2時間前後かかるため、何度も足を運ぶことになります。
重要なのは、調停はあくまで話し合いの場であり、即座に不利益な結論を押し付けられるものではないということ。出席すれば相手の主張を聞き、自分の意見を整理する機会にもなります。欠席を続ければ、いずれ審判に移行し、裁判所が一方的に分割方法を決めることになるため、実務的には出席を勧めます。
6. 最後に
遺産分割は、「遺産をどう分けるか」という単純な作業に見えて、法的手続や感情が複雑に絡み合う難しい問題です。分け方を決める話し合いの前に、まずは遺産の種類や金額、相続人は誰か、といった全体像を正確に把握し、「何を分けるのか」「誰と分けるのか」を整理する必要があります。
もっとも、遺産が小額の現金のみといったケースであればともかく、遺産の額が大きかったり、遺産の中に、現金や預貯金以外の不動産・その他様々な種類の財産が含まれているケースでは、これらの整理自体を行うことが容易ではありません。
それぞれの事案ごとに費用対効果の問題があるので、一概には言えませんが、当事務所の経験上、本気で遺産分割を失敗したくないのであれば、最初から専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
当事務所では、相続だけでなく不動産問題も得意とする弁護士が、遺産分割調停から審判まで数多くの案件に対応し、将来紛争が再燃しない形での解決を重視してきました。不動産を含む財産評価や分割方法の検討、主張の整理、必要資料の収集から、調停条項の作成・審判対応まで、一貫して支援いたします(全国対応)。
負けない遺産分割を実現したいと本気でお考えであれば、当事務所にご相談ください。