1. はじめに
「限定承認は自分でできますか?」という質問を受けることがありますが、結論から言えば、法律上は可能でも、現実的にはおすすめしません。
実際、最初から専門家に相談せず自分で手続きを始め、途中で行き詰まって駆け込んでくる方は少なくありません。しかし、その時にはすでに期間が過ぎていたり、遺産を誤って処分してしまっていたり、債権者対応を誤って限定承認ができない状態になっていることも多いのです。
この記事では、限定承認の経験豊富な弁護士が、限定承認の手続の概要を簡単に解説します。
2. 財産目録作成のハードル
限定承認を行うには、預貯金や現金だけでなく、不動産、株式、車両、貴金属、売掛金、保証債務まで調査し、評価額を付けた財産目録を作成する必要があります。
3. 法定単純承認の落とし穴
さらに注意すべきは、遺産を勝手に使ったり処分する行為です。例えば故人名義の預金を引き出す、不動産を売却するなどすれば、民法921条の法定単純承認に該当し、限定承認はできなくなります。結果として、被相続人の債務を全額負担することになり、制度の最大のメリットが失われます。
4. 難しい債権者対応と清算業務
家庭裁判所に限定承認の申立てが受理されても問題はそこからです。家庭裁判所への申立後、短期間の内に、官報への公告手続を含む、債権者保護手続と遺産の清算業務を自分で行う必要があります。
当然、金融機関や取引先などから支払い時期や契約処理、利息の扱いなどについて直接問合せが来ますし、公告後は債権の精査、優先順位に沿った弁済、現金不足時には競売による換価も必要になります。これらは破産管財人業務に近く、素人には極めて困難です。
5. 相続放棄とは難易度が桁違い
以上、見てきたように、限定承認の手続は、相続放棄とは難易度が桁違いです。
素人が限定承認の手続を自分で行うことは、失敗のリスクが高く、おすすめしません。
もし限定承認を本気でお考えなら、早期に限定承認の経験豊富な弁護士に依頼されることをおすすめします。