1. 婚姻費用は「生活費」ではなく「攻防」
「婚姻費用」と聞くと、夫婦のどちらかが一時的に生活に困らないように支援する、“生活費の分担”というイメージを持つ人が多いでしょう。
しかし、離婚実務の現場で、私達は、婚姻費用は単なる生活費ではなく、法的・戦略的な“攻防の手段”としても捉えています。
この記事では、婚姻費用に潜む“戦術的側面”についを解説します。
2. 婚姻費用とは
離婚が成立するまでは、たとえ別居中でも、法的には夫婦。
したがって、収入の多い方は、少ない方に対して「婚姻費用」の支払義務を負います。
婚姻費用には、食費や住居費、子どもの教育費や医療費など、夫婦が婚姻生活を維持するために必要な費用が含まれており、夫婦はお互いに生活を保持する義務があるため、収入の多い方は、少ない方に対して、「婚姻費用」を支払わなければなりません。
3. 婚姻費用と養育費の違い
婚姻費用と養育費の大きな違いは、誰の生活を支えるためのお金かと、いつまで支払うのかという点です。
婚姻費用は、別居開始から離婚成立までの間、配偶者と子ども両方の生活を維持するために支払われます。
一方、養育費は離婚後から子どもが20歳になるまで(または大学卒業まで)、子どもの生活を支えるために支払われます。
このため、配偶者の生活分も含まれる婚姻費用の方が、養育費よりも高額になります。
そして、この金額差こそが、婚姻費用が離婚交渉において「攻防の道具」になる理由です。
4. 婚姻費用が“攻防”になる理由
(1) 請求する側の戦略
離婚に応じない相手に対して婚姻費用を請求することで、「離婚が成立するまで、養育費より高額な金額を支払い続けなければならない」という状況を作り、早期離婚へのプレッシャーをかけることができます。
(2) 支払う側の戦略
相手が離婚に応じてくれない場合、婚姻費用と養育費の差額は、離婚時の解決金(いわゆる手切れ金)の目安になります。
例えば、離婚実務では、婚姻費用が月15万円、養育費が月10万円なら、差額の月5万円×想定期間をもとに、解決金の交渉を進めることが一般的です。つまり、婚姻費用が高額であればあるほど、解決金の提案額も高くなる可能性があるということです。
そのため、支払う側は婚姻費用の金額をできるだけ抑えることが、最終的な負担を軽くするうえで非常に重要です。
一方で、調停では、「離婚調停」と「婚姻費用調停」が併合され、同時に審理されます。
婚姻費用は原則として算定表に基づいて決まるため、支払う側が根拠のないごね方をすると、肝心の離婚自体の話合いが進まなくなり、かえって根本的な解決が遅くなり、その結果、婚姻費用の支払期間も長くなるため、ただ単純にごねればいいというものでもありません。支払う側にとって、何を主張して主張せざるべきかの判断は、戦略的にも重要な判断になります。
5. まとめ
婚姻費用は、単なる生活費の話ではなく、離婚交渉の行方を左右する「戦略的な武器」になり得ます。
請求する側・支払う側、いずれの立場であっても、金額や主張の仕方ひとつで、最終的な解決金や離婚成立までのスピードが大きく変わってしまいます。だからこそ、「どこまで主張すべきか」「どこは譲るべきか」を見極めるためには、法律や実務を熟知した弁護士のアドバイスが欠かせません。
婚姻費用をめぐる判断は、あなたの離婚条件や今後の生活にも直結します。大きな損をしないためにも、早めに専門家へご相談ください。