1. 離婚調停を「現実的な解決の場」とするために
「調停って、意味あるんでしょうか?」
たしかに、ただ相手の言い分に振り回され、言いたいことも整理できずに終わってしまうと、そういう印象になるかもしれません。
でも実際には、離婚調停は制度として非常によく設計されています。離婚調停は訴訟よりも柔軟で、公平な合意形成を促すために設計されており、うまく使えば、訴訟に至らず妥当な解決を導ける「制度化された交渉の場」なのです。
では、調停を現実的な解決の場に変えるためには、どう臨めばよいのでしょうか。
弁護士の視点から整理してお伝えします。
2. 感情をそのままぶつけない
調停の場では、怒りや悲しみといった相手を非難する感情が顔を出すのは当然です。
ただ、その感情をそのまま調停で表現してしまうのは得策ではありません。
なぜなら、相手を非難する感情からは往々にして“短絡的な希望”しか出て来ないからです。
たとえば、
* 「育児は私任せで、相手は、子どものことを考えていないから、面会はさせたくない」
* 「一方的に別居されて、私は悪くないから、慰謝料を〇〇円支払ってほしい」
* 「自分が働いて稼いだお金で築いた財産だから、相手に分ける必要はない」
こうした短絡的な希望は一見もっともらしく聞こえても、調停では次のような問題を引き起こします。
① 調停の論点から外れる
調停は、確かに交渉の場ですが、裁判所が主導で行うため、ある程度法律という枠組みの中で解決を探る場です。たとえば、「相手が嫌だから会わせない」という主張は、「子の福祉を尊重する」という面会交流の理念から外れますし、「相手に財産を一切渡さない」という主張は、「公平な財産の分担」という財産分与の理念に反するため、調停の場では受け入れられません。
また、感情的な話に時間を取られると、肝心な本題についての話合いが進まなくなります。こうした状態が続くと、調停委員にも「面倒くさい人」と思われて、あなたの話を「話半分」にしか聞いてもらえなくなる、ということにもなりかねません。
② 相手の対抗心をあおる
「一円も渡したくない」「絶対に会わせない」「高額な慰謝料がほしい」といった強硬な希望は、相手にとって挑発にしかなりません。もともとは、歩み寄れる余地があったのが、「それなら裁判で決着をつけよう」という硬直した展開に発展しやすくなります。
このように、感情をそのまま表現し、短絡的な希望に終始するというのは、得策ではありません。調停の論点に即して話すことが大切なのです。
3. 言いたいことを整理してから伝える
調停委員は味方でも敵でもなく、カウンセラーでもありません。あくまでも、中立的な立場から論点を整理し、合意形成を助ける役割を担っています。
そのため、こちらの希望を的確に理解してもらうには、話をあらかじめ整理しておくことが欠かせません。
* 何を主張したいのか(ポイント)
* なぜそれを望むのか(理由・根拠)
* 最終的にどうしたいのか(目的)
この三点を準備しておくことで、調停委員に意図を正しく伝え、建設的な話合いに持ち込みやすくなります。
4. 落とし所を見定めておく
調停は、「要望を押し通す場」でも、「相手の非を論じる場」でも、「自分の不幸を語る場」でもありません。現実的な着地点を探る場です。
だからこそ、事前に「自分の中の軸」を整理しておくことが重要です。
* 絶対に譲れない条件は何か
* どこまでなら妥協できるのか
* 優先順位はどうなっているのか
これを決めておけば、途中で迷いにくくなりますし、調停委員からも「現実的な解決を目指している」と評価され、サポートを得やすくなります。
5. 弁護士に依頼する意義
とはいえ、感情を整理し、主張の組み立てや落とし所を一人で見極めるのは簡単ではありません。
弁護士が関与することで、感情に流されず論点を整理し、調停委員に伝えるべきことを明確にしたうえで臨むことができます。
調停をただの消耗戦にしないために──。
まずは一度、法律の専門家に相談することが、現実的な解決への大きな一歩となります。