1. はじめに
「契約不適合責任」―不動産取引に関心があれば、一度は聞いたことがあるはずです。
ところが、色々と聞いたり調べたりするけど「結局よく分からない」という声を業者・消費者の双方から多く聞きます。
この記事では、宅地建物取引主任者(現:宅地建物取引士)として不動産取引の実務経験を持つ弁護士が、契約不適合責任について最低限知っておきたい実務のポイントをお伝えします。
2. 契約不適合責任とは
⑴ 民法562条~564条
不動産取引における契約不適合責任とは、引き渡された不動産が契約で定めた内容に適合していない場合に、売主が負う責任のことです。裏を返せば、不動産取引における買主を保護するための規定です。
なお、契約不適合責任は、民法559条により、賃貸借契約にも準用されます。そのため、賃貸借契約の目的物が契約の内容に適合していない場合には、賃貸人は賃借人に対して、契約不適合責任を負います。
⑵ 契約不適合の具体例
①引き渡された新築分譲マンションの間取りがパンフレットと異なっていた
②中古住宅を購入したところ、雨漏りやシロアリ被害が発見された
③建築基準法上の制限で増改築ができなかった
④住宅が耐震性能を満たしていなかった
⑤日常生活に支障が出るほど住宅が傾いていた
などのケースが典型例です。
3.「契約不適合かどうか」の判断基準
⑴ “予定した品質や性能に適合しているか否か”
難しいのは「契約不適合かどうか」の判断です。この判断基準については、民法改正前の瑕疵担保責任の「瑕疵」に関する判例等を持ち出して来て、色々ややこしい説明をする人もいますが、シンプルに、契約の目的物が「契約当事者がその契約において予定した品質や性能に適合しているか否か」によって判断すれば大丈夫です。
⑵ 具体例
①経年劣化が発見された場合
例えば、築20年の中古住宅を購入後、築年数相応の劣化が発見されたとしても、築20年の中古住宅の売買である以上、買主も経年劣化があることは当然に予定していたはずです。築年数相応の劣化は予定の範囲内ですから「契約当事者がその契約において予定した品質や性能に適合している」ことになるため、通常は契約不適合になりません。
②安全性を欠く欠陥が発見された場合
しかし、築20年の中古住宅を購入後、構造的に安全性を欠く欠陥が発見された場合には、例え築20年の中古住宅であっても、住むために買った以上、買主は安全に住めることを予定していたはずです。構造的に安全性を欠く欠陥は予定の範囲外ですから「契約当事者がその契約において予定した品質や性能に適合していない」ことになります。この場合、買主が欠陥を知った上で安く購入していたなどの事情がなければ、契約不適合になります。
4. 買主の具体的な権利
契約不適合があった場合、買主が主張できる権利のポイントは次の通りです。
⑴ 履行の追完請求(民法562条)
修繕、代替物の引渡し、不足分の補充を求めることができます。
⑵ 代金減額請求(民法563条)
修繕などがなされない場合、あるいはそもそも不能な場合には、代金の減額を請求できます。
⑶ 損害賠償請求(民法415条)
修繕費用や入居できなかった期間の賃料相当額など、損害を請求することも可能です。
⑷ 契約解除(民法541条・542条)
契約不適合により、契約目的を達成できない場合には、契約そのものを解除できます。解除することで、目的物は返還しなければなりませんが、代金の返還を請求することができます。
5. その他、実務で注意すべき点
契約不適合か否かの判断以外に、実務上注意すべきポイントは下記の通りです。
⑴ 通知期間の制限
買主は、原則として、契約不適合を知った時から1年以内に通知する必要があります(民法566条)。なお、会社間の売買の場合には、商法526条によって、買主は受領後直ちに目的物を検査した上、契約不適合を発見した場合には直ちに売主に通知しなければならないなど、買主の通知義務が加重されているため注意が必要です。
⑵ 宅建業法との関係
宅建業者が売主の場合、宅建業法40条により、上記の通知期間を2年未満とする特約は無効です。当然、契約不適合責任を全く負わないとする特約も無効となるため注意が必要です。
⑶ 消費者契約法との関係
売主が事業者の場合、宅建業者でなくても、買主が個人の場合には、消費者契約法により、契約不適合責任を全部または一部を負わないとする特約は無効になるため注意が必要です。
6. まとめ
不動産取引は、事業や生活の基盤に関する重要な取引です。特に、個人の買主にとっては、一生に一度の大きな契約であることが多く、契約不適合責任を正しく理解することは、業者・消費者双方にとって不可欠です。
もっとも、具体的な局面における契約不適合責任の権利行使の可否については、極めて専門的で技術的な判断が必要です。
契約不適合責任が問題となった場合、多額の金銭を巡る紛争になることが多いため、早めに経験豊富な弁護士への相談をおすすめします。