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【宅建業】宅建業者の行政対応の基本-苦情から監督処分まで、不動産の弁護士が解説

1. はじめに

ある日突然「お話を伺いたい」という電話が役所からかかってくる-宅地建物取引業者にとって、行政からの事情聴取は決して軽視できるものではありません。

取引の相手方や媒介依頼者との紛争が端緒となり、行政に苦情が寄せられると、監督処分に発展する可能性があるからです。監督処分は宅地建物取引業者の経営に重大な影響を与える以上、宅地建物取引業者としては的確に対応する必要があります。

この記事では、宅地建物取引主任者(現:宅地建物取引士)として不動産取引の実務経験を持つ弁護士が、宅建業者が行政対応を迫られた際に踏むべき手順の基本を、事実確認から行政への説明に至るまで、整理して解説します。

2. 事実の確認

最初の対応は、事実関係を正確に把握することです。取引開始の経緯、顧客の要望、媒介契約の締結時期、営業担当者の説明内容、重要事項説明書の作成者・内容、契約締結の日時・場所、クレームの発生原因・クレーム内容等、取引の全てのプロセスを資料とともに確認します。

特に注意すべきは、業者にとって不利な事情も含めて確認することです。例えば、重要事項説明書には必要な記載をしていたものの、契約の過程で営業担当者が事実と異なる発言をしていれば、これが違法と認定されて、行政処分を受けることもあります。

携帯電話をはじめとする録音機器の発達した現在では、顧客を含め、取引相手が交渉過程を録音している前提で対応を考えるべきです。仮に録音されていなくても、その他の証拠を突き合わせることで虚偽は発覚するため、不利な事情を隠蔽することは絶対に避けるべきです。

不利な事情を踏まえて対応すれば、軽い処分で済んだケースでも、これを隠蔽しようとして対応した結果、重い処分になるケースが非常に多いのが実情です。有利・不利を問わず、全ての事実を正確に特定することが、すべての出発点となります。

3. 原因の究明と再発防止策の策定

事実を精査した結果、違反事実が確認された場合には、原因を究明し、明確な再発防止策を組織として策定することが、処分の軽減のために不可欠です。

原因究明は、組織的な指示によるものか、担当者が独断で行ったものかを区別する必要があります。その上で具体的な再発防止策を策定します。

実務上は、次のような三点を軸に、再発防止策を詳細に策定していきます。

⑴ 業務プロセスの見直し

違反が組織的か個別的かにかかわらず、チェック体制が機能していなかった以上、業務フローの改善は不可欠です。

⑵ 担当者・上席者への対応

必要に応じて、社内で解雇・減給・降格等の懲戒処分を行うことが、再発防止策の前提として必要です。

⑶ 社内教育の徹底

当該事案を社内で広く共有するとともに、役員・従業員を含む全てのスタッフが、以後、監督処分の対象となり得る行為を行わないよう社内教育を徹底する必要があります。外部の専門家を招聘し、宅建業法上の業務準則や関係法令等の啓発・研修を行うなど、具体的な社内教育のためのスキームを構築しなければなりません。

4. 示談の必要性

監督処分の原因となっているトラブルが、民事上の損害賠償請求も発生させる場合、取引相手と民事上の紛争について示談で解決しておく必要性は非常に高いです。

法律上の建前は、行政処分と民事上の紛争は別個の問題ですが、宅建業法の最終目的が「取引相手の利益保護」にある以上、実務の現実としては、取引相手との民事上の紛争を示談で解決しておくことで、多くのケースで行政処分を大幅に軽減もしくは免れることができます。

5. 行政に対する説明方法

以上のプロセスを経て、またはこれと平行して、行政に対して具体的な説明を行います。

⑴ 違反事実が存在しない場合

違反事実が存在しない場合は、証拠とともにその旨を明確に主張します。説明に説得力を持たせるために、口頭ではなく、必ず書面により詳細かつ具体的に説明するべきです。

⑵ 違反事実が存在する場合

違反事実が存在する場合は、原因の分析、再発防止策、示談の進行状況を含めて説明しなければなりません。もちろん、説明に説得力を持たせるために、口頭ではなく、必ず書面により詳細かつ具体的に説明するべきです。

行政とのやり取りは一度で終わるとは限らず、複数回に及ぶこともあります。その過程で、行政庁は行政指導にとどめるのか、監督処分を行うのかを判断します。

6. 聴聞手続について

宅建業法は、免許取消しだけでなく、業務停止処分や指示処分についても聴聞手続を義務付けています(法69条1項)。

聴聞通知書には処分の理由や法令根拠が明示され、業者は聴聞手続の中で陳述書や証拠を提出することが可能です。しかし、実務上は、聴聞通知が来た際には、すでに行政が処分の結論を決定しており、聴聞手続でこの結論を覆すことが難しいケースが多いため、聴聞通知が来る前に行政との適切な対応をしておくことが不可欠です。

聴聞手続の中で、全て主張すれば良いと考えて、それまでは行政対応をしないといった選択は絶対に避けるべきです。

【関連記事】
宅建業者に対する監督処分の流れ

7. まとめ

宅建業法違反の有無が疑われる事案では、①事実関係の確認、②原因究明と再発防止策の策定、③必要に応じた示談、④行政庁への的確な説明が必須です。

行政対応を誤れば、業務停止や免許取消しといった重大な処分につながりかねません。処分が下されると、その内容は官報や公報で公告され、さらに国土交通省の「ネガティブ情報等検索サイト」に掲載されます。業務停止や免許取消しに至れば、取引先はもちろん、一般消費者にも容易に確認される情報となり、信用の失墜は避けられません。

行政処分は、宅建業者の事業の存続にも影響を及ぼす重大な影響を及ぼす以上、行政からの照会があった段階で、早期に不動産実務に精通した弁護士へ相談し、正しい手順を踏むことが、経営を守る最も現実的な手段です。

 

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