1. 雛形契約書=リスクの温床
「ネットで拾った契約書のひな形を使っておけば大丈夫だと思っていました」
契約トラブルの相談で、こう語る経営者は少なくありません。特に中小企業や個人事業では、契約書を作成する目的が「形式を整えること」にすり替わり、実態に合っているかどうかを検討しないまま署名・押印してしまうケースが目立ちます。
しかし、現場の実務では、雛形をそのまま使ったために発生した紛争の方が多いのが実情です。契約書における「雛形」は、あくまで出発点にすぎません。
この記事では、企業法務を得意とする弁護士が、契約書のひな形をそのまま使用することによって生じ得る法的リスクと、その回避策について解説します。
2. 雛形契約書の限界
契約書は、本来「当事者間の具体的な合意内容」を文章化するものです。しかしネットや市販本で手に入る雛形は、汎用性を優先して作られており、実際の取引の背景や業種特有のリスクには対応できません。
典型的な欠落ポイントとしては、次のようなものがあります。
・損害賠償の範囲や上限が不明確で、違反時の対応が曖昧になる
・契約解除の要件が広すぎたり狭すぎたりして、いざというときに使えない
・違約金や期限の利益喪失といった制裁規定が未整備
・下請法、消費者契約法、著作権法など個別法規制の反映不足
一見「それらしい文言」が並んでいるため、関係者が安心してしまい、逆にリスクが放置されるのです。
3. 実例:条文はあるが、無価値だった契約書
あるIT業務委託契約では、「発注者の承諾なく再委託を行ってはならない」とだけ書かれた雛形条項を採用していました。
納品後、発注者が再委託先の品質に不満を持ち、契約解除と損害賠償を求めましたが、裁判では「再委託禁止の範囲や違反時の効果が明確でない」として請求が退けられました。
条文は存在していたものの、「どのような行為が違反になるのか」「違反した場合の具体的な措置」が定義されていなかったため、法的効果を発揮できなかったのです。
4. 実務で求められる契約書
雛形を“自社仕様”に変えるプロセス
雛形を使うこと自体が悪いわけではありません。重要なのは、自社に最適化することです。
具体的には、
・取引の実態・背景事情を把握し、想定されるリスクを洗い出す
・交渉力のバランスを踏まえ、譲れない条件を明確化する
・曖昧な文言を避け、履行義務・違反時の措置を具体的に定義する
・関連法規や最新の裁判例を踏まえたリーガルチェックを行う
これらの工程を省けば、雛形は単なる“空の枠”であり、法的に機能しない紙切れです。
5. 雛形の契約書では守れない
契約書は、取引の安全装置であり、同時に紛争時の最後の拠り所です。
しかし、雛形をそのまま使うことは、鍵穴はあるものの、施錠していない玄関を「鍵は付いているから安全」と思い込むのと同じです。
リスクを避ける最も確実な方法は、取引の実態に即して内容を設計し、法的な裏付けを備えた契約書を作成すること。「雛形は材料であり、完成品ではない」その認識を持つことが、トラブルを防ぐ第一歩となります。
6. 安心して事業を行うために
契約のトラブルは、一度争いになれば費用も時間も大きく奪われます。だからこそ、作成段階での備えが重要です。
当事務所は企業法務の一環として、取引の実態に即し、法的な裏付けを備えた契約書の作成を全国対応で支援しています。実務と裁判例を踏まえた弁護士の視点で設計することで、雛形ではカバーできないリスクに対応可能です。
未然に契約リスクを予防し、安心して事業を行うために、当事務所の知見をご活用ください。