1. 慌てないことが大切
ある日突然「著作権侵害を理由とする警告書」が内容証明郵便で届くことがあります。
回答期限を切った上で、削除や謝罪の要求に加え、損害賠償の支払いを求められる―このような警告書を受け取った場合、著作権侵害について確信犯のケースを除き、動揺して大きな不安や恐怖を覚えたとしても無理はありません。
しかし、ここで最も大切なのは慌てないこと です。確信犯の場合を除き、警告書が届いたからといって、必ずしも著作権侵害が成立しているとは限らないからです。それは、素人ではなく、弁護士から警告書が送られて来た場合であっても同じです。
仮に著作権侵害が成立するとしても、損害額が本当に相手の主張通りの金額であるという保証はありません。
しかし、動揺して冷静さを失い、相手の言うがままに削除や謝罪、金銭支払いなどを約束してしまえば、本来これらの義務を負担する必要がなかったとしても、後から無かったことにすることはできません。
では、警告書を無視するとどうなるか?警告書が届いたということは、相手には氏名や住所がバレています。放置すると、民事訴訟を提起されたり、著作権侵害罪を理由とする刑事告訴もあり得る以上、警告書を無視してはいけません。
以上を踏まえ、著作権の紛争解決に注力する弁護士が、著作権侵害の警告書が届いた場合の具体的な対処法をお伝えします。
※なお、この記事は、著作権侵害について故意のある確信犯向けの記事ではありません。著作権侵害について、確信犯の場合は、著作権侵害罪(最高で十年の拘禁刑及び3億円の罰金)による逮捕・勾留・起訴・刑事裁判に備えて、しかるべき弁護士に刑事弁護を依頼することをおすすめします。
2. 警告書の送り主を確認する
著作権侵害の警告書は、大きく分けて二つのタイプがあります。
⑴ 権利者本人名義の警告書
この場合、感情的に「自分の作品を真似された」と思い込み、法的根拠が十分でないケースも少なくありません。もっとも、送り主の名義が素人であるだけで、弁護士のアドバイスを受けて素人が警告書を送っているケースもあるため、名義が素人であるからと言って、無視して良いというわけではありません。
⑵ 弁護士名義の警告書
この場合、通常は弁護士が著作権侵害の要件を検討したうえで、警告書を送ってきているため、著作権侵害について、それなりの法的根拠がある可能性が高いといえます。ただし、白に近いグレーゾーンの事案でも強気に請求してくる弁護士も存在するため「弁護士から警告書が来た=著作権侵害確定」とは言えません。
⑶ 自己判断で回答しない
いずれの場合も、必ず、相手の主張を確認・整理して、下記3の著作権侵害の成否や、4の損害額の算定に詳しい弁護士に相談した上で対応を決めるべきです。自己判断で回答しないでください。
内容証明郵便に回答期限が切ってあったとしても、その回答期限に返事をしなければ、逮捕されたり財産が差し押さえられるわけではりません。繰り返しになりますが、慌てないことが何より大切です。
3. 著作権侵害の成否を判断
著作権侵害は、相手が「侵害だ」と主張すれば直ちに成立するような単純なものではありません。実際には、下記の代表的な例をはじめとして、著作権侵害が成立しないケースもあるため、著作権の侵害判断について慎重に検討する必要があります。
⑴ 類似性・依拠性を欠く場合
まず、著作権侵害と指摘された部分の「表現の本質的特徴」が類似しているかを、具体的箇所ごとに対比します。表現の本質的部分以外の一致は、類似性を欠くため、著作権侵害にはなりません。相手作品の存在を知らずに偶然類似した作品が作られた場合も、依拠性が欠けるため、著作権侵害になりません。
⑵ アイディアやデータの利用
著作権が保護するのは「創作的な表現」であり、アイディアや事実、データそのものは対象ではありません。たとえば、テーマや手法、統計数値などを利用しても、それを自らの表現に落とし込んでいれば侵害にはなりません。指摘を受けた際には、自分が利用したのが表現ではなくアイディアやデータにとどまることを明らかにする必要があります。
⑶ 私的利用のための複製(著作権法30条1項)
著作権法は、家庭内や個人的な範囲での複製を認めています。たとえば、自宅で自分だけが視聴する目的で録画した場合などです。ただし、SNSに投稿したり、第三者と共有したりすると「私的利用」の範囲を超えるため、この点を誤解しないことが重要です。
⑷ 引用にあたる場合(著作権法32条1項・48条1項)
批評や研究、報道などの目的で必要最小限の範囲で他人の著作物を利用する場合は、適法な引用として認められます。そのためには、引用部分と自分の文章との主従関係が明確であること、引用部分を区別して表示していること、出典を明示していることが要件となります。これらの条件を満たしていれば、侵害にはなりません。
⑸ 上記⑶・⑷以外の著作権制限規定にあたる場合
著作権法には、上記⑶の私的複製や⑷の引用以外にも、教育や図書館での利用、障害者のための利用など、公共的な利益に基づき著作権を制限する規定があります(著作権法30条から50条)。自分の利用がこれらの条文に当てはまる場合には、著作権侵害は成立しません。もっとも、該当するかどうかは要件が細かく、正確な判断が必要です。
⑹ ライセンス契約の範囲内の利用
著作物を利用するにあたって、著作者や権利者から利用許諾を受けている場合は、その範囲での利用は適法です。契約書や利用規約に定められた範囲内で利用しているかを確認しましょう。範囲を逸脱していなければ、侵害の成立は否定されます。
⑺ 著作権の保護期間が経過している場合
著作権には存続期間があり、著作者の死後70年が原則です。保護期間を過ぎた著作物はパブリックドメインとなり、自由に利用できます。利用している著作物がすでに保護期間を経過している場合には、著作権侵害は成立しません。
⑻ 小括
類似性の判断をはじめ、著作権侵害の成否の判断は非常に専門的で難しいため、素人判断で結論を出すのは危険です。著作権実務に精通した弁護士に相談し、事実と証拠を整えたうえで専門的な鑑定を受けることをおすすめします。
4. 損害額の検討
仮に、著作権侵害が成立する可能性が高いという判断になったとしても、相手が請求する損害額がそのまま認められるわけではありません。実務上、請求額が過大であるケースは珍しくないため、損害額を精査しなければ、必要以上に高額な金銭を支払うことになりかねません。
特に「営業損害」の評価では、単純に売上全体を損害とみるのではなく、追加的経費を差し引いた「限界利益」が損害とされるのが一般的であるにもかかわらず、売上そのものを根拠に高額請求を行ってくるケースがあります。
さらに、慰謝料や弁護士費用相当額が上乗せされる場合もありますが、これらが当然に認められるわけではありません。
著作権侵害を否定できない場合でも「いくら払うか」は別問題です。損害額はケースごとに大きく変動するため、動揺して何も考えずに相手の言い分をそのまま受け入れてはいけません。
もっとも、著作権侵害に関する損害額の算定は、著作権侵害の成否と並んで、非常に専門的な知識と経験が必要です。著作権実務に精通した弁護士に相談することが不可欠です。
6. まとめ-慌てず、騒がず、弁護士に相談を
警告書が届いたことと、著作権侵害が成立していることは別の話です。送り主が素人でも弁護士でも、まずは慌てないことが一番大切です。
警告書は警察の逮捕状ではありません。弁護士が送ってきた内容証明郵便であっても、それで逮捕されたり、財産が差し押さえられるわけではありません。
最悪なのは、動揺して冷静さを失い、自己判断で相手の言い分を丸呑みにすることです。
もっとも、警告書を無視すると、民事訴訟を提起されたり、著作権侵害罪を理由とする刑事告訴もあり得る以上、警告書を無視してはいけません。
ではどうするか?まずは、落ち着いて状況を整理した上で、できる限り証拠を整え、慌てず、騒がず、著作権に精通した弁護士に相談する―これが、著作権侵害の警告書が届いた場合の最善の対処法です。