1. 法人破産後の代表者の生活
中小企業の経営者である代表者は、会社の借入に個人保証をつけていることがほとんどです。
そのため、法人破産をすれば、多くの場合は代表者本人も自己破産することになります。
「破産すると生活が続けられなくなるのでは…」という不安を抱く方も多いですが、正しい情報を知れば、その不安の多くは解消されます。
この記事では、法人破産後の日常生活がどのような影響を受けるのかを中心に、法人破産で変わるもの、変わらないものについて解説します。
2. 破産しても変わらないもの
(1) 個人名義で契約している自宅や光熱費はそのまま利用できる
個人名義で契約している賃貸住宅や水道・電気・ガス、携帯電話、インターネットなどの契約は、滞納がなければそのまま継続することができます。自己破産を理由に賃貸契約やこれらのインフラ契約が一方的に解約されることはありません(ただし、携帯電話については、機種代を分割払いで支払っている場合は、解約になります)。
(2) 日常の買い物や食事、通院などはこれまで通り
自己破産をしても、スーパーや飲食店での買い物、病院への通院など、日常の行動は変わりません。銀行口座も、借入があった銀行の口座は使えなくなりますが、それ以外の口座は、生活費の受け取りや公共料金の引き落としに使えます。
ただし、クレジットカードは使えなくなるため、
代わりに
・ デビットカード(事前にチャージした金額から支払う)
・プリペイドカード(銀行口座から即時に引き落とされる)
・QRコード決済(PayPayや楽天ペイなど。ただし、auPayなどのキャリア決済は破産手続終了後のみ)
・電子マネー(ICOCA、Suicaなど。現金や預金からのチャージ形式なら可)
・家族カード(家族に家族カードを発行してもらう)
これらを準備するといいでしょう。
また、ETCカードは、基本的には、クレジット一体型のため使えなくなりますが、ETCパーソナルカード(保証金を預ける方式)や家族にETCカードを発行してもらう形で対応できます。
このように、事前に代替手段を準備しておけば、「破産後の生活=不便」にはなりません。少しの準備で、これまで通りの暮らしを続けられます。
(3) 家族が連帯保証人でなければ、家族の財産に影響はない
自己破産はあくまで本人の債務を免責する手続きであり、家族の財産や収入まで巻き込むことはありません。家族が保証人や連帯保証人になっていない限り、家族の貯金や自動車などが差し押さえられることはありません。
3. 一時的に制限がかかる資格・職業
自己破産をしても、製造業・小売・飲食・ITなど、多くの業種では破産後もそのまま仕事を続けられます。また、医療系の仕事も、資格制限はありません。
ただし、宅地建物取引士(不動産業)、 弁護士・司法書士・税理士などの士業法人の代表、生命保険外交員(募集人)(保険代理店)、警備業、貸金業、質屋、旅行業など、一部の資格、職業については、一時的に制限がかかるものもあるため、事前に調べておく必要があります。
また、会社代表者の方は他の会社の役員(取締役・監査役・執行役など)を兼ねている場合も多いですが、この場合も破産手続開始決定により委任契約が終了し、自動的に退任となってしまいます(民法653条)。
もっとも、一般的に、職業・資格等の制限を受けるのは 「破産手続きの開始決定を受けて復権を得ない間」です。自己破産をしても「復権」できれば制限が解除され、仕事に戻ることができます。
4. まとめ
破産は確かに人生の大きな節目ですが、それは「生活の終わり」ではなく、新しいスタートのための制度です。あらかじめ、何が変わり、何が変わらないのかを知っておくことで、安心して次の一歩を踏み出せます。